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ナマコとイリコ#2 中国がナマコ好きになるまで

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スペイン、魔界の征服へ。

ポルトガルに出遅れたスペインは新大陸の探検を始めます。直前までイスラム教勢力のと戦っていた戦慣れした連中です。また、宗教色の強いプロの軍人でもあります。そんな彼らはまるで、かつての十字軍に参加しているような宗教的な使命感と正義感と、個人的な野心をもって、新世界を蹂躙してまわりました。自分たちを本当に十字軍で数々の伝説を残したテンプル騎士団の直系と考えていたようです。崇高な神を拒絶し悪魔の教えに染まった南米の邪教徒どもを粛々と駆除し、奴らの悪の帝国を粛々と消滅させ、邪悪な文明が溜め込んだ膨大な金製品や宝物を、正統な文明人である彼らの手に取り返すことで浄化しました。また慈悲深い彼らは、邪悪な文明に染まり切っていない未開人(半人間)どもは殺さず捕獲し、牛馬と同格に扱い牛馬の代わりに働かせるという寛大さを見せました。

アステカの首都、テノチティトランを前に祈る征服者たち。コルテス率いる征服者たちはアステカ帝国と果敢に戦い、150人が戦死したと伝わる敗戦(悲しき夜)などの苦難の末に、無事、テノチティトランを蹂躙、廃墟とした。征服者たちの基本戦術は、欧州の疫病に対する免疫を持たないアステカに対して天然痘などの伝染病を化学兵器として使い、銃火器を局地戦と防衛に使用したもので、1100万人ほどだったアステカの人口は瞬く間に100万程度にまで減り、アステカは滅亡した。(Margaret Duncan Coxhead, Public domain, via Wikimedia Commons)

魔界を開発してみよう!

例えば、現在のペルーやメキシコなどにあった銀山などには、採掘道具として、お目溢しされた半人間どもが大量に使用されました。奴らは次々と捕獲され、ピストン輸送されて来るので、開発は順調に拡大し、銀は次々と地上に掘り出されました。半人間どもは、エサだけは与える必要がりましたが、故障や不具合が起きても手入れの必要はなく、壊れて動かなくなれば捨てればよいので、非常に便利な使い捨て道具でした。

ポトシから世界に価格革命をもたらしたセロ・リコ(金持ちの丘)銀山を望む。(Martin St-Amant (S23678), CC BY 3.0, via Wikimedia Commons)

デキた?じゃ、改宗。

余談ですが、神の威光が届いていない暗黒世界を日々浄化するという崇高な使命に邁進する、正しい文明人であるスペイン征服者たちは、酒と煙草を飲み、半人間を獣姦することで一時の精神の安らぎを得ていました。馬鹿な話で、半人間どもは不遜にも孕み、子を産みました。また、人間ではないとは言え交わった女には情も湧きます。そこで、子を成した女に対しては、形式的なものでもお構いなしに即座に改宗させ、即席で人間に昇格させ現地妻としました。征服者は征服先の各地で妻を作り、次々と子を孕ませました。産まれた子達はクリスチャンとしての世界観で育てられ、やがて成長すると征服者たちと同様に選民意識と優越感、使命感と義務感をもって新大陸の統治に勤しみ、やがて征服者の後継者として新大陸の実働的な支配階級となりました。

18世紀末または19世紀初頭の絵画。「1.スペイン人はインディアンからメスティーソを生み出す。/スペイン人1、インディアン2、メスティーソ3」と書かれてある。(See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons)

ここで面白いのが、征服者たちは新世界の住民たちを人間と感じておらず、見なしておらず、扱いもしていなかったのに、形式だけでもキリスト教に改宗させた途端に、人間扱いどころか同胞や仲間と似た「身内意識」を持って彼らに接することができたという点です。ここらあたりの極端な双極性のような心情の変化が、私がキリスト教世界の価値判断の基準にしばしば感じる違和感、理解出来なさの根底にあるモノなのかもしれません。ラノベとかでよくある魔王VS勇者モノの世界観って、まさにこんな感じですよね。女の悪魔が勇者と結ばれて人間側の味方になるなんてのも、よくある展開です。

征服者の二大有名人、フランシス・ピサロとエルナン・コルテス。征服者(コンキスタドール)とは「征服」を事業目的としたベンチャー企業的な、私的で小規模な軍事組織のことで、彼らは投機家から資金を調達し、スペイン政府(王)に征服許可の申請し、征服に必要な様々な困難な準備を自発的にクリアして、散発的に大西洋を渡っていった。彼らの軍事戦略はゲリラ的で、心理戦や破壊活動、テロリズムなどを駆使した。迷信を利用して彼らに対する敵意を逸し、先住民同士の対立を煽って同士討ちをデザインし、そしてスペインから持ち込んだ伝染病を利用してバイオテロを行いパンデミックを引き起こした。無論、直接的な武力戦闘では銃砲で敵を圧倒した。(Urituguasi, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

スペイン、銀を世界に垂れ流す。

さて、スペインが武器商人をやめて、膨大な命の消費の代償として偉大なる神の恩寵を得るようになると、世界経済における銀の流通量に歯止めが効かなくなりました。まだ経済学なんてなかった時代で仕方なかったんですが、スペインは、海水を柄杓で掬うような感覚で銀を世界中に撒き、ブドウの木からブドウの房をもぎ取るように目当てのもの国元に持ち帰りました。買い付け先である欧州や中国の先進文化圏では莫大な銀が市中と国庫にあふれ、銀の価値は相対的に下落し、金銀銅の兌換率が狂ってしまいました。するとスペインはさらに銀を増産し、下落分の銀を積み増して支払いました。

スペインのガレオン船は3本マストが特徴で、軍艦のみならず、商船として運用され、500トン未満から、やがて1000トン程度にまでに大型化していった。特にアカプルコ・マニラ航路のガレオン船(マニラガレオン船)には2000トンに達する超巨大船もあったという。鉄製蒸気船が登場するまでの海船の花形であったが、見てくれ重視で性能やスピードは今ひとつだった。画像はアマルダ海戦においてイギリスの小型海賊船に翻弄されるスペイン無敵艦隊。この戦いで無敵艦隊は壊滅するのだが、その原因は悪天候(暴風雨)による座礁と沈没だった。(Cornelis Claesz van Wieringen , Public domain, via Wikimedia Commons)

海洋帝国、デカくなりすぎて潰れる。

やがて、この世界を等分した二つの帝国は、広大な支配エリアの維持費(主に戦費)のために疲弊し破綻してしまいます。神の裏書きが付いた世界の支配権を持っているからと言っても、他の国は黙ってはいないわけです。何をするかと言えば、海賊行為などの略奪をしかけてきたんですね。で、彼らが支配する世界中の広大な交易領域を警護する巨大な軍隊、とりわけ膨大な戦艦が必要になるわけです。銀が湧き出る泉を持っていてもその費用が払えない。その間にも銀の価値は下落し続けていてますし。

この構図は、ポルトガルの香辛料でもおこり(胡椒価格の下落)、二国のスーパープレイヤーによる海上覇権の時代は終わり、次世代の新たなメージャープレーヤを目指す各国が勃興します。混迷の時代が始まるわけですが、一方、血で血を洗う覇権争いには傍観を決め込み、グローバル化するマネー(銀)の恩恵だけを享受し続けた中国は、スーパーバブリーな大満時代を迎えました。

中国、銀庫と化す。

どれほどの銀が中国に流入したかというと、ロクな銀鉱山を持っていなかった中国の貨幣が、この時代に紙幣+銅貨から銀貨にチェンジされたほどです。東方世界にくまなく流通する超大国の基本通貨、その素材が銀になったわけで、凄まじい量の銀が流入していたかがわかります。関係者たちはバブルに狂っていました。

明朝の銀貨。左の分銅形のものは銀鋌(ぎんてい)、右の独特の馬蹄に似た形状のものは銀錠(ぎんじょう)と呼ばれ、実際にはさらに多種多様のデザインの銀貨が存在していた。秤量貨幣であることから、形状は重視されず、重量さえ一致すれば造形にはこだわりがなかった。が、全体的なイメージは江戸で両替商が用いた分銅(現在の銀行の地図記号)にまで繋がっている。明朝後期に銀貨による貨幣経済へ移行したことは、古代中国の税制と経済を大きく進歩させた。(Gary Todd from Xinzheng, China, CC0, via Wikimedia Commons)

さて、世界帝国時代のスペインの話を終える前に、蛇足を一つ。

コンキスタドールとしてアステカを文字通り滅亡させたコルテスですが、彼にも功績らしいものがありまして、それはカカオをヨーロッパに伝えたという点です。封建制日本のコメと同様に、滅亡前のアステカ王国においてカカオは貨幣の役割をも持つ食品でした。彼はこの大変な価値を持つたいして美味しくもない不思議な実を本国に報告し、持ち帰りました。スイーツとしてのチョコレートの歴史はこの瞬間から始まったと言えます。

括坊奚

岡山市在住の野良キュレーター。
日常を豊かにするリーダーズ・ダイジェストを目指しています。
構造に関するコンテンツが好きです。

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