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鉛#3 温泉行って硫黄くさいとアガる

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ギプスは石膏のオランダ語。

そして耐火の必需アイテム、副生(排脱)石膏が誕生。

現在、脱硫装置によって回収された二酸化硫黄の余剰分は、主に石灰石と反応させることで硫酸カルシウム(CaSO₄)に姿を変えられ、産業資材として利用されています。硫酸カルシウムは石膏の主原料になります。つまりこれ(副生石膏)を原料に石膏ボードなどが安価に作られ、わたしたちの生活に利用されているわけです。

石灰石を用いた排煙脱硫装置。大規模なプラントではこの方式が採用されている。(画像引用元:ソブエクレー株式会社の排煙脱硫法の紹介ページ

石膏ボードは建築物の防火にとって重要な役割を果たす建材ですし、遮音性にも優れていますから、戸建ての木造住宅から超高層ビルまで、耐火構造を求められる建築物、つまり建築物のほぼ100%にふんだんに利用されています。

石膏ボードに使われる石膏の約半分が脱硫装置由来です。どうして100%じゃないのかと言えば、農業用の肥料に使うリン酸(H₃PO₄)を製造するために燐灰石を硫酸(H₂SO₄)と反応させる工程で、副産物として石膏が大量に生まれてしまうので、これの処分にも困るからです。何なら本来はこの肥料用の燐灰石(Ca₅(PO₄)₃F)が由来の石膏(CaSO₄・2H₂O)の処分先として石膏ボードが機能していたほどです。

Ca₅(PO₄)₃F+5H₂SO₄+10H₂O → 3H₃PO₄+5(CaSO₄・2H₂O)+HF (湿式リン酸製造法)

石膏を鉱物として採掘していない日本ですが、この肥料を作る工程でできる石膏と工場の脱硫装置でできる石膏など、これらを化成石膏と総称しますが、化成石膏によって世界第10位の石膏生産国だったりします。

石膏ボードで圧倒的なシェアを持つ吉野石膏のタイガーボード。吉野石膏株式会社は江戸時代以前から金・銀・鉛など様々な鉱物を産出した山形県の吉野鉱山の中の石膏採掘所が起源で、創業は1901(明治34)年。石膏の納入先であった日本タイガーボード製造の業績が悪化した際に、債権回収で石膏ボード事業を落札しタイガーボードブランドも引き継いだ。現在では国内市場シェア80%、売上高1235億、従業員900名を誇る巨大企業にまで成長している。吉野鉱山は水害事故が原因で1939年に閉山している。

石膏で一件落着?

環境対策のおかげで厄介物だった二酸化硫黄ですが、石膏のような有用な物質に生まれ変われるようなって大円満だと思うじゃないですか?ところがどっこい、今度は石膏ボードの廃棄も問題なんです。

石膏ボードは難燃性ですし、二酸化硫黄が出ても困るんで、焼却処理できません。そのまま最終処分場で埋められて処分されています。日本は建築物の対応年数が総じて短いですからその量は膨大です。そして日本は温暖湿潤な気候。処分場の土中で地下水などの水分が染み出してきて、石膏ボードがグショグショになってしまうと、水没した石膏が硫酸イオン(SO₄²⁻)のヘドロとなります。すると土中にひっそりと潜んでいる細菌の中の極めて原始的なマイナーグループ、硫酸塩還元菌が活動を初めるのです。

硫酸塩還元菌で最もメジャーな菌、デスルフォビブリオ・ブルガリス。菌の右に見えるバーは0.5ミクロンを示している。(Graham Bradley, Public domain, via Wikimedia Commons)

この細菌は太古の昔、まだ地球上に酸素を吸って二酸化炭素を吐く生物が存在しない頃から活動をしている細菌の古代種のようなヤツで、彼らは硫酸(SO₄²⁻)を吸って硫化水素(H₂S)を吐く「呼吸」をします。彼らは硫酸呼吸をしながらゴミの中の有機物(炭素)を食べて増殖します。石膏ボードが処分されているような最終処分場には少なくとも建築廃材があり、それだけでも木材やプラスチックなどの有機ゴミが無限なくらいにありますから、硫酸塩還元菌が大繁殖し、ヤツらの代謝で硫化水素がアホほど発生してしまいます。硫化水素は第一次世界大戦ではイギリス軍の化学兵器として2度使用された実績を持つほど、人体にとって猛毒な気体です。

池の底などのヘドロが真っ黒なのは、淀んだ水中で硫酸塩還元菌によって金属成分が硫化されたため。下水道や排水処理施設も同様で、立ち入る際には硫化水素に注意しなければならない。(Brudersohn, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

石膏ボードの処分にはそれはそれで問題があるわけです。石膏ボードに限らず、石膏の廃棄のルールは年々厳しさを増しています。家庭ごみであっても石膏は燃えるゴミにも不燃ごみにも出せないというルールを設けている自治体もあります。業者に依頼すれば¥100~200/kgあたりで処分してもらえるのですが、渡った先では一部のリサイクルに回せる状態の良い石膏を除けば、全て処分場で埋め立てられることになります。

ただし、これは大量の石膏を一箇所で、集中的に処分しようとする場合の弊害であって、アロマストーンを作ったり、ハンドメイドで石膏を使ってみた、程度の少量の石膏を処分したい場合は、樹脂などを混ぜたモノでなければ砕いて庭の土にでも混ぜ込んでしまって問題ありません。土にカルシウムと硫黄が補充されて植物が元気になります。実際に石膏は肥料としても販売されていてるくらいで、実は肥料として考えた場合、石膏はとても有益な効能を発揮します。石膏の硫酸カルシウムという成分は、これまで書いた通り水と親和性が高いので、素早く溶けたカルシウムは土壌のphを迅速に中和してくれますし、硫黄はすべての植物の代謝にとって重要なミネラルです。また土壌にわずかにいる硫酸塩還元菌が微量の硫化水素を発生するので農薬的な効果も微妙にあります。中でも葉面や果物へ直接散布するタイプの商品は、葉面からカルシウム分と硫黄分の両方を補給することが出来る上に、病気やカビの発生が抑えてられるという、かなり優れた肥料です。

ここまで、サルファーフリー化によって次々と生み出される化成石膏とその利用、そしてその先の廃棄について書みましたが、とりあえず現時点でのわたしの意見は、最終処分場の防水と漏水の処理、ちゃんと機能してるか確認したほうが良いいね。くいらいですかね。まあ、日本は地震国ですから、再確認をしたところで、焼け石に水なんですが。

アメリカ合衆国ニューメキシコ州にある石膏の大砂丘地帯(ホワイトサンズ国定記念物)。71000ヘクタールにわたって透明石膏の砂漠が広がる(鳥取砂丘は150ヘクタール)。石膏がこれだけあっても水分と有機物がそろわない環境では硫酸塩還元菌は生息できず、硫化水素も発生しない。(davebluedevil, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons)

私たちがあまり直視しようとしないでけで、廃棄処理は自治体や業者に丸投げしてOKな問題ではなくて、一筋縄ではいかない、終わりのない戦いです。とどのつまり石膏についても、リサイクルやリメイクをする循環スキームを稼働させて廃棄を止める以外に解決策はないんでしょうね。プラスチックですらペットボトルと食品トレーくらいでわずかに実現できている程度なのに、賭け事好きの欧州に習ってCO₂の排出権取引とか金融相場に優秀な人材が流れている昨今の日本ですが、現実的に稼働する資源サイクルを実現するための、グランドデザインとかその社会実装とかにいつか人的なエネルギーを割ける日が来るんでしょうか。

鉱石である天然石膏の結晶。透明な結晶はセレナイトと呼ばれることもある。通常、「天然石膏」と呼ばれる鉱石の化学式はCaSO₄・2H₂Oで、水が含まれている(水和物)鉱物で、二水石膏とも呼ばれる。他にも半水石膏(バサニ石)、無水石膏(硬石膏)などの鉱石もある。石膏ボードにはこの天然石膏と副生石膏が大体1対1で配合されていて、わずかにリサイクル石膏ボードも混ぜられている。骨折などの際に使われるギプスも、オランダ語での石膏(Gips)のカタカナ語。二水石膏は160~170℃で加熱してやると、水分が蒸発して半水石膏になる(このため半水石膏を焼石膏とも呼ぶ)性質があり、また、半水石膏に水を加えてやると水和反応によって二水石膏に変化する性質がある。焼いた石膏の粉末を整形して加水してやることで、医療ギプスやら歯科模型、美術室に必ず置いてある石像やら、複雑で自由な造形の石膏製品を得ている。ちなみに石膏のモース硬度2で、方鉛鉱よりチョットだけ柔らかい。(Géry PARENT, Public domain, via Wikimedia Commons)

次に石膏ボード以外の石膏の利用法で、特に面白い豆腐との関係について書いてみますが、石膏は美術や工芸、医療の分野などでも八面六臂の活躍をしています。コスト面を考えると代替となる材料がないのが現状です。適切に管理さえすれば、石膏は非常に便利で有益な資源であることに間違いありません。リサイクル技術の開発と社会システムの整備が待たれます。

括坊奚

岡山市在住の野良キュレーター。
日常を豊かにするリーダーズ・ダイジェストを目指しています。
構造に関するコンテンツが好きです。

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