温泉の硫黄の香りは腐った卵が出す気体と化学的に同じ。
温泉の硫化水素
温泉地に行って硫黄臭さを感じると、私のような温泉好きはテンションがバク上がりするんですが、この匂いこそが硫化水素のニオイです。二酸化硫黄はマッチを擦ったときの鼻の奥がツーンとくるあの懐かしいニオイですが、現在のマッチには硫黄分が含まれていませんから、花火の煙のニオイと言ったほうがわかりやすいですね。酸化性の気体はだいたい刺激的ですが、目や鼻に入るとかなり沁みます。その刺激が食品加工で有益に使われているわけです。
硫化水素は腐った卵のようなニオイがします。実際に卵は腐るとアミノ酸が分解されて硫化水素が発生するのでその通りで、まんま「腐卵臭」と言います。臭さでいえば硫化水素のほうが二酸化硫黄より断然クサイです。これは我々の鼻がそのようにセッティングされているからで、それだけ危険な気体だということです。ですので硫化水素臭が濃厚に漂う有名な温泉地の空気でも、計測してみると硫化水素の濃度は0.5~1ppm(1ppm=0.0001%)程度に過ぎなかったりします。

万が一、そのような硫化水素臭のする温泉地や火口に近い場所などで、換気の良くないスポットに遭遇してしまった場合、硫化水素の濃度が上がると目が痛くなったり吐き気や頭痛がするほどの臭気を感じるので、迷わずその場を離れましょう。人間のピーク許容暴露(決して超えてはならないレベル)は50ppm(0.005%)です。やがてその濃度が150ppm(0.015%)を越えると、そのあたりからは鼻の嗅覚細胞が麻痺して臭気を感じなくなります。そうなったら一刻を争う、即座に離脱しなければかなり命を失うリスクが高い状況です。
また、二酸化硫黄と同様に、硫化水素も空気より重い気体です。ですので地面に近づくほどにその濃度は高くなります。濃い硫化水素を吸って体調が悪くなったからといって、その場にしゃがみ込んだり横になったりするのはNGです。仮にそこが硫化水素だまりのような場所だった場合、最悪の場合、即座に意識を失い、やがて死に至ります。口や鼻の位置を高く保って脱出しましょう。

蛇足ですが、硫黄泉のニオイを「硫黄のニオイ」などと言いまわしますが、硫黄(S)という物質は無臭ですし、何なら水にも溶けません。硫黄の粉末をそのまま湯船に混ぜ込んでも、微粒子が水中に分散して漂うことははありますが、湯船の底にザラザラと沈殿して、湯船や給湯器、排管などの金属部分をしっかり痛めつけてくれます。つまり、硫黄泉の有効成分は硫黄そのものではなく様々な硫黄の化合物です。
例えば、遊離硫化水素(H₂S)や硫化水素イオン(HS⁻)、チオ硫酸イオン(S₂O₃²⁻)などがそうです。また、硫黄が硫酸イオン(SO₄²⁻)として溶け込んだ温泉は名称が硫黄泉ではなく「硫酸塩泉」となります。これらの中で危険が高い成分は遊離硫化水素(H₂S)です。が、温泉はその成分の中で最も多い成分が泉質として書かれていますので、「次亜硫酸」(チオ硫酸)と成分が書かれている温泉だからといって、成分中に遊離硫化水素が含まれていないわけではありません。硫酸水素イオンもたぶん含まれています。温泉によっては数十種類のミネラルが含まれている場合だってあります。

温泉として営業されている施設はしっかり換気対策も考慮されているので大丈夫ですが、野湯を楽しまれる際には注意しましょう。まあ、野湯に入られるようなコアな温泉通の方には釈迦に説法でしょうが。
参考文献:
非鉄金属研究会 (著) 山口 英一 (監修) 「トコトンやさしい非鉄金属の本」
西山 孝 「元素のふるさと図鑑」
齋藤 勝裕 「へんな金属 すごい金属」
青木 正博 「鉱物・岩石入門」
住友金属テクノロジー 「金属の素顔にせまる」
佐々木 稔 「鉄と銅の生産の歴史―金・銀・鉛も含めて」
杉田 清 「炉の歴史物語―省エネルギー・環境対策の発展に学ぶ」
参考ウェブサイト:
Wikipedia、You Tube、、環境展望台「環境技術解説・排煙脱硫技術」、クボタ環境エンジニアリング株式会社、ミウラ化学装置株式会社、草津温泉ポータルサイト「湯LOVE草津」、東北大学多元物質科学研究所 村松淳司Homepage 2002年度 界面・電気化学 5/7 第5回 一服(「温泉の化学」から「硫黄の七変化」だけ抽出)、温泉検索どっとこむ、環境省「温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止のためのガイドライン(2017年9月)」、臭気判定士の激闘、国立環境研究所 資源循環領域、細井化学工業株式会社、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 実用化ドキュメント 軽油を極限までクリーンにする触媒、株式会社丸商、千代田化工建設株式会社、グローバルノート、合資会社恒岡豆腐、全豆連、CPD講座 建設業におけるリサイクル 第5回 石膏ボードのリサイクル 磯部孝行、吉川商事株式会社、高純度化学研究所 公式ブログ、株式会社中島など。
画像元サイト:
Wikimedia Commons、千葉県立中央博物館 大利根分館、ソブエクレー株式会社、新エネルギー・産業技術総合開発機構、写真AC。
動画元サイト:
Musto Wine Grape、WineMakersToyStore、GuildSomm International、東森新聞 CH51、アイ ラブ トーフ 利兵衛庵、ITADAKIMASU – 美味しいたべものができるまで -、維仁茶坊リラファイン。



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