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鉛#3 温泉行って硫黄くさいとアガる

CommonplaceCuriosities

このお話は「「鉛」 2 方鉛鉱は直火でパパっと」のつづきです。

方鉛鉱から鉛を精錬する過程で発生する硫黄についてのお話しです。

食品を非加熱で熟成加工したいなら、まず二酸化硫黄(亜硫酸塩もしくは亜硫酸ガス)。

さて、方鉛鉱(PbS)を加熱すると、最終的に硫黄が酸化して鉛から離れることで金属鉛が製錬され、酸化した硫黄、二酸化硫黄(SO₂)は気体となって大気中に拡散します。

この二酸化硫黄は、実はかなり有害な気体で、特に呼吸器に悪影響を及ぼします。じつは有名な四日市ぜんそくの主要な原因物質でもあります。

一方で、腐敗や劣化を防ぐ目的で、ワインやドライフルーツなどが代表的なんですが、様々な加工食品の製造や加工の様々な過程でこの二酸化硫黄が多用されています。ワインの品質表示を見ると「酸化防止剤(亜硫酸塩)」などと書かれていますが、本質的には、これは二酸化硫黄のことを指します。

ノスタルジーな香り、二酸化硫黄。

二酸化硫黄などと科学的な名称を書くと、なにか特別な物質のように勘違いしてしまいますが、実は硫黄を燃やすだけで得ることができる気体です。もっと乱暴に言ってしまえばマッチを擦った時に出るプンとする臭気がソレです。別に特別なモノなんかじゃありません。

S+O₂→SO₂

ですからね。何てことはありません。あの臭み、好きでしたね。

日本に古来からあるマッチ、付け木は別名をイオウギとも言い、「祝う」と語感が似ていることから贈り物の返礼、引っ越しの挨拶に添えられて使われたりもした。(画像参照元:千葉県立中央博物館大利根分館むかしの道具展

二酸化硫黄は毒。でも食と密接に関わってます。

さて、二酸化硫黄は重い気体(比重は空気の2.926倍)で、これが食品加工にとても重要な影響を与えました。例えばワインを樽詰めする前に硫黄を燃やして空気を二酸化硫黄に置き換えて栓をしてやれば雑菌の繁殖が抑えられ(酵母反応にはあまり影響しません)、酸化が緩やかになり、香りがなくなったり酢になったりする劣化現象が防げます。二酸化硫黄は水にほとんど溶けないので、食材の上を覆う二酸化硫黄の層のバリヤー効果は長く発揮されます。剥いて吊るしたばかりの柿をまずは部屋に詰めて干し、そこで硫黄を焚くことで、酸化硫黄で燻蒸してやれば、柿の表面の酸化が抑えられるので見た目の色は鮮やかになり、また、しばらくは雑菌も虫も寄り付きません。二酸化硫黄の独特の臭気が食材の風味には少しマイナスに影響しますが、メリットが多すぎて現実的には問題になりませんでした。くどいですが、あの臭み、嫌いじゃありませんでした。

この干柿の鮮やかな色味は二酸化硫黄の燻蒸があってこそ。それにしても美味そう。

二酸化硫黄、メタカリに進化する。

かつては硫黄を焚くことで二酸化硫黄を直接的に使っていましたが、現在は、固形物であるメタ重亜硫酸カリウム(Metabisulfite、K₂O₅S₂、通称はメタカリ。ピロ亜硫酸カリウムとも呼ばれる。)が使われています。気体の二酸化硫黄と違ってメタカリは水に溶かすことができる性質があります(亜硫酸水素カリウム=2KHSO₃←K₂O₅S₂+H₂O)。

気体を取り扱うのは、かさが張ったり、誤って吸い込んだりする危険があって何かと扱いづらいんですが、液体ならずっと簡単です。二酸化硫黄はより低コストでより安全に添加できるようにりました。その結果、加工食品におかる様々なシーンでメタカリが多用されるようになりました。

ホームワインを醸造する際に、メタカリを使って器具を洗浄する方法をレクチャーする動画。日本での自家醸造はアルコール度数が1%を超えると処罰の対象になるのでご注意を。

例えば現在のワインの製造では、ブドウの果肉を潰す工程で一回、樽詰めした後工程では熟成期間によって一回から数回、瓶詰めする前工程で一回と、幾度となくメタカリ水溶液が添加されていて、また、そうすることが現代的な醸造学でも推奨されています。完成までに長い期間を自然の醸成に任せるタイプの食品にとって二酸化硫黄は、狙った結果を導くために必要な、シートベルトやガードレールのような安全装置のようなもので、多少の窮屈さを感じたり、視界の邪魔に感じたりしても、重大な問題を起こりにくくする至極便利な物質なんでしょう。

こちらもホームワインの醸造をレクチャーする番組でのメタカリを添加する場面。どうやらワインは買うものではなくて自作するもの。日本で醸造される場合はアルコール度数が1%未満になるようにするか、醸造許可を取得してください。

添加されたメタカリの硫黄分は、やがて亜硫酸(H₂SO₃)として安定し、ワインの液中で二酸化硫黄(SO₂+H₂O)がストックされて反応待ちしている状態となり、ワインを酸化から守ります。また、カリウムは最終的に酒石酸水素カリウム(KC4H5O6)という固形物として沈殿し、樽のおり下げの工程や、ろ過の工程で除去されます。

硫黄を燃やしていた頃と比べると隔世の感があります。

ワインや蒸留酒のグローバルエデュケーショナルネットワークであるGUILDSOMM(ギルドソム)によるメタカリ添加工程の紹介場面。

ワイン醸造ではメタカリが主役になりましたが、硫黄を燃やす古典的な硫黄燻蒸もまだ需要はあって、干し柿などのドライフルーツの分野ではバリバリの現役です。硫黄はネットや薬局などで簡単に手に入りますので、ご家庭でも試せますが、その際は吸い込まないよう安全に注意しましょう。

また、硫黄を購入された場合、それをそのままお風呂に入れても入浴剤にはなりません。ただ湯船などを痛めるだけのことになりますので、ご注意ください。そのお話の前に、スルーするわけにはいかない二酸化硫黄の別の面を少し書きます。

kukurunbo@くくるんぼ

岡山市在住の野良キュレーター。
「まとめ小部屋」的な意味でくくるんぼ(括るん坊)です。
日常を豊かにするリーダーズ・ダイジェストを目指しています。
食に関するコンテンツが好きです。

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